<説教要旨>

「今や恵みの時」(7/11)

「恵みの時に、わたしはあなたの願いを聞き入れた

(コリント第二6章2節)

 パウロのヨーロッパ伝道の拠点であったコリント教会は、「富んで豊かなコリントス」(ホメロス『イ―リアース』)と呼び習わされていた都市にありました。アカイア州の首都、交通の要所であり地政学的にも重要な都市で経済的にも繁栄していた港町でした。パウロは第二伝道旅行の際に、コリントに赴き1年半ほど滞在(使徒言行録18章11節参照)します。パウロにとっては、コリントの町はエーゲ海周辺で最も繁栄した中心都市で、宣教活動や経済活動を展開するには有利な場所でした。アキラとプリスキラ夫妻という協力者を得て、ガイオ、エラスト(ローマ16章23節)などの地元有力者が入信するなど、ローマに繋がる大切な拠点地域の教会となります。
 しかし、一方でコリント教会ほど、パウロを悩ました教会はなかったようです。教会内の「分派問題」(コリント第一1章5節)、「霊的な賜物」や「知恵」を誇り、高ぶる「霊的な熱狂主義者の問題」、さらに、パウロの使徒職を否定する者たちの存在など、彼は時に失望しながら手紙を書き続けます。パウロは教会内の一致を求めることを強く勧告し、日常生活の課題(食事・結婚など)や、礼拝・賜物・復活・献金の宗教生活上の諸問題について助言をします。
 本日の聖書個所コリント第二6章は、「和解のために奉仕する任務」について伝えた後、「和解の福音を託された」パウロが福音とは何かということを語っている個所です。先ず、彼は「神の協力者」(1節)、「神に仕える者」(4節)としての自己理解を表明しています。しかし、それは単に僕の業として働くという倫理的勧告でなく、「キリストの愛がわたしたちを駆りたてる」(5章14節)との言葉のように、神の恵みによってのみ生かされていることへの信仰の原点に戻ることを促しています。同時に、それ故に「神からいただいた恵みを無にしてはいけません」(2節)と神から与えられた恵みに応える生き方を勧めています。そして、イザヤ書(49章8節)を引用して、現在が、今こそがキリスト・イエスによる「恵みの時」「救いの時」であることを宣言します。
 パウロにとって、神の恵みを信じるとはキリストによって罪赦されたことを受け入れるということです。それは、「無償の愛」を受容するその時を常に覚えるということです。確かに私たちはキリスト・イエスの十字架の死によって、何の代価もなく赦されました。その罪を深く覚えつつ、今、ここでの恵みを受け取ることを強調します。「鞭打ち」「監禁」「暴動」「労苦」など伝道者としての苦難の歩み(4~7節)を経験しながら、なお、神と共に働くことによって「無力な力」が用いられる神の不思議な恵みを感じ取ったパウロの信仰に学んでいきたいと思います。

(説教要旨/菅根記)